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ポエゾン~インク切れの惑星~で朗読したやつ

はい。2017.2.26に行われた象短歌会+詩会クレプスカ合同朗読会「ポエゾン~インク切れの惑星~」で僕が朗読した作品です。



  詩と詩の断片     二三川練


  Ⅰ

どこへあるいているのだろう
言葉をさがしていた
どこかに記されて ひろわれるのを待っている
通りすぎた自動車のもたらす
微風のような
言葉をさがしていたのだが

  Ⅱ

最初の完全数が6であるのは
神が六日間で世界を創造したことと関連があるらしい
偶数の完全数は無数に存在するのか
奇数の完全数は存在しないのか
という問題は未解決である

  Ⅲ

人のいない道をえらぶ
角をまがるとちいさな小屋
かつて そこで詩を朗読した
言葉はこころからわきでるのだ と
信じていたときの
暴漢のようにぬるい手ざわりの詩
いまは小屋のとびらは閉ざされている
窓をのぞいてみると
かつての自分が
亡霊のような観客たちにかこまれて
詩を朗読していた
熱にうかされているような顔で

  Ⅳ

素数は無限に存在する
しかしその分布は非自明である
現在発見されているなかで最大の素数は
四十九番目のメルセンヌ素数であり
これを十進法で表記すると
二千万桁を超える

  Ⅴ

何年かまえにつぶれた工場の
まだ劣化のすくない壁に
らくがきがあった
かほ、りん、ゆうこ、えりか、ゆき、
だいき、しょう、かなた、けん、たいが、
数々の人名のなかに
友人のなまえをみつける
読みあげると その友人が
たくさんのなまえをおしのけて
壁から顔をのぞかせる
おひさしぶり と
彼女が言う
ひさしぶり と返すと
彼女は全身をあらわにして
歩こう、と手をとった
からだとからだの境界がわからなくなるような
なまぬるい温度だった

  Ⅵ

 終電の過ぎた線路沿いを歩くと、泣き声が聞こえた。人間のではなくて、線路だとかパンタグラフだとかの、忘れられてしまった無機物たちの泣き声だ。これは昼でも人間の音に混ざって聞こえるのだろうか。それとも、太陽が出ている間は泣かないのだろうか。
 そういうことを考え始めたらきりが無くなるけれど、どうしても考えてしまう。泣き声はどこを歩いても聞こえてくるからだ。道端のゴミ袋とかマンホールの蓋とか、売れ残った百円ライターとかの、同じトーンの泣き声が聞こえてくる。
夜を歩いていた。泣き声の海に沈みながら。重力がどこかへ行ってしまったかのような軽快さで、地上の海底散歩を楽しんでいた。人はみんな眠っている。なのに一人きりじゃないのがおかしくて、泣き声だらけの夜で笑い声をあげてしまう。
 ふと、泣き声の中に混じって砂嵐のようにざらざらした音が聞こえた。見ると、ゴミ捨て場に置かれた古新聞の束から、星の数ほどの文字たちが這い出ている。銀色の文字の群れが、月の光に照らされながら。手のひらを差し出すと、少しくすぐったい感触と共にのぼってきた。
「君たちはどこに向かってるの?」
――分からない
 手のひらで文字がうごめいて、そう記した。よく見ると一字一字が脈打っている。
――でもどこかに帰りたい
 文字たちがもう一度うごめいた。彼らはどこかに帰らなければならないのだ。古新聞ではない、どこか別の場所へ。あちらこちらにある、拾われるのを待つ泣き声たちのなかで、彼らが動き出した理由がそこにある。そんな気がした。
「一緒に行こうよ」
 そう言うと、文字たちは驚いてぶるりと波打った。
「君たちの帰るところを、僕も探したい」
 ぞろぞろと戸惑うような動きを見せてから、やがて五つの文字が手のひらに残った。
――ありがとう
 他の文字たちが身体をのぼって、胸ポケットの中に入っていった。

  Ⅶ

雪の日をクレヨンで描く 戦争のない日みたいに真っ白な紙

人権の数だけチョコレートをあげる 君と君と君には空港をあげる

からっぽのからだにそそぐアムリタの僕がしんだら一人でわらえ

水分を摂りたくなってグミを噛むこうして僕は泣けないだろう

光にはなれない 眠る 凪いだ皮膚 眠る カナリアの声がする 眠る

  Ⅷ

「詩を朗読するときに
すでにあった感情を上書きするような
感覚におそわれます。
自分はここだ、と
言いたくなればなるほど
言葉にはじきだされてしまう
やがて観客の手足がきえて
眼だけをのこして
客席は空白にみたされる。
眼の喝采だけが
いつまでものこっている」

  *

交差点に雨がふる
汚れた傘に穴をあける
トラックの荷台に詰めこまれた
なにかの肉が逃げだした

かなしい声でわらってた
うれしい声でないていた
動物の骨をたべていた
ぼくは生きてちゃいけない子どもです

  Ⅸ

手をひかれ
広場につれてゆかれると
みわたすかぎりの人
無限のようだが たしかに
その人数をあらわす数はある
彼女は手をはなし
人ごみのなかへきえてゆく
追いかけようとして 歩みだすと
街中にちりばめられた広告
人と人との話し声
イヤフォンからもれる歌
そのあらゆる言葉が
からだに流れこむ

傘いらないくらいの雨で傘をさす 怒りたいけど怒られたくない

幾万の言葉が磨滅した朝の自由とは黄身のくだけた卵

飛び降りで死ぬ日があって首吊りで死ぬ日があって豚のベーコン

霧雨に洗わせている血の眼 薬のように言葉を吐くな

見わたす限りの明るいニュース 人生の前半戦で死ぬ守護天使

  Ⅹ

数は神の言語である
あらゆる数学者の営みは
神のノートをめくっているだけにすぎない
数学者が導き出す
あらゆる数も法則も
神があらかじめ規定したものに
すぎない

  ⅩⅠ

1-1=0
非在に至る数式は
おおくの実在を残し

  ⅩⅡ

金魚鉢を牛乳で満たす 月並みな言葉で君を許してあげる

人として人の倫理を棄ててゆく ネオンの灯る一瞬に闇

裏庭の猫の交尾を見おろして蒸留水を飲んでいる昼

ここからはすずしいところひとりでに足は小枝を踏みしめてゆく

月を殴れば月の欠片が落ちてきてそれからずっと三日月である

1-1=0
海辺にのこされた瓦礫
酸性雨にけずられた銅像
島につきささるように生えた巨樹
パイプオルガンよりも鈍い音をたてて
しかしより精密にパイプを編んだ
都市
からだのなかで反響する
無数(しかし有限)の0
その背後にそびえる
おおいなる1

  ⅩⅢ

友人の手をとるように
いまだ0には至らない
不完全な言語を
ひろう
よわよわしく脈をうち
街にひしめいているらくがき
それらをひろい
僕は詩を書く
すると街が黙し
過去は貞淑に道をゆずる
いまだ0には至らない
不完全なからだに
なまぬるい灯がともる
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